放送局裏話

ラジオ業界解説|番組制作の裏側(1) その日 9.11

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その日、ボクはラジオのスタジオで独り編集作業をしていました。ネタは「宮崎のイセエビ解禁!」取材に行って、漁を見て、食べるという話題。

普通にやると面白くないので、笑えるつくりを模索してた。深夜12時近くなり、席のあるフロアにもどるとどうも慌しかった。

ハイジャック?
どうもそうらしい。場所は。アメリカ。ふーん。と思った。ところが。ハイジャックされた飛行機は11機だと!? そんな情報が実しやかに飛び交ってた。

本当だったら、えらいこと。そしてしばらくしてNHKのテレビに衝撃的な映像が出た。

飛行機がニューヨークのWTCビルに突っ込んだ。

これがテロリストの行為だということに気づくには、もう一機の犠牲が出るまで時間が必要だったのです。

もう一機が激突。そして倒壊。本当に驚いた。その後、何度も何度も繰り返される映像。さらにペンタゴンにも突っ込んだと。ホワイトハウスや国会議事堂は? 余計な心配までしてしまった。翌朝。といっても数時間後ですが。

午前のラジオ番組を担当していたボクは、当然「特別番組」が編成される。。。そう思っていました。しかし違った。

 

番組タイトルやコーナーを残せとの判断が下る。

 

やりにくい。

人が何千と死んでいるのに、報道番組を作れない脆弱な編成体質だったのです。この判断が出た瞬間、ボクは自分の会社の判断が「甘い」と思ってしまったのです。

危機管理を日ごろから全くしていなかったから、マニュアルも作っていなかったから、こんな判断を下すのかな?

以前、天災が起きたとき、犠牲者が出たにもかかわらず特別番組の判断をしないという大きなミスを犯したのに。。。そしてその反省をしたそぶりを見せたのに。。。またもやヘンな判断をしたのでした。そのときの上層部はね。 やれやれ。

で、しかもあとの番組内容はおまかせ。自分で情報をとるしかなかった。

 

ボクの担当の前の朝番組は、自分たちで取材すらしていない。直接方方に電話すらしない。

番組を乱したくない。。。とディレクターがもらした。これにはびっくり。
配信ニュースを読む以外は、ニューヨークの思い出を語っていた。なんじゃそりゃ。
頼みの会社の報道部は、定時用のニュースしか用意しない。

またもや取材をしていない。ファックスや配信ニュースを待つだけ。文句を言ったら逆ギレされた。みんな対岸の火事としか思ってなかったみたい。どれだけ人が死のうが所詮NYの出来事。

福岡の一放送局の、それもラジオなんか。。。って思いがどっかあったのかな?けどボクはそんなこと言ってられなかった。。。

ニューヨークには友だちがいたのです。小中学校時代の同級生の女の子。まさに無事かどうかを知りたいがために、電話をかけた。つながった。よかった。だから話をしてもらったのです。ラジオで。リアルだった。。。。

轟音の後に、市内に立ちこもる粉塵。テレビもFMもダウン。頼みの綱はAMラジオだったとか。そこで何が不通か、どうしたら生きられるかを知ったらしい。帰宅は暗い地下鉄のトンネルの中を、みんなで手をつなぎながら歩いて帰ったとか。

すると。

このボクの友だちの存在を知った同じ局内にいる、テレビ番組担当、他のラジオ番組担当のディレクター・プロデューサーたちから
「紹介して!」と、軽々しい一言が立て続けに。。。

結局彼女は、何度出演したかわからないほど、電話からの声で出演した。でもそれで終わり。礼はボクへの「サンキュー」でおしまい。。。

場つなぎなのか、ネタなのか、大切な友人の生死の情報を、とても軽く使われた気がしたのです。まぁ、この子の場合は結果として生きてたからよかった。

まさに放送中、もうひとりの生死が気になっていたのです。それは福岡の企業に勤める男性。ボクは直接の友だちではなかったけど、同じ大学だから、もちろん存在は知ってた。で、彼はボクの友だちの友だち。彼を知る別の友人から、携帯に電話やメールが何度も入る。
「あいつは無事か?なんか連絡とれた?あのビルの上にいるかもしれんのや!!」

彼の名は中村君。

「知っとう?彼はにしぎんのエリートばい!あんたと大違い!!」とその友人はボクに対し、まるで自分のことのように誇らしげに語っていたのを覚えている。

残務整理中のオフィスビルに飛行機が衝突。そのままビルとともに、中村君は崩壊した粉塵の藻屑と消えてしまった。

未だに遺体どころか、骨のかけらすら見つかっていない。WTCの瓦礫の山の撤去作業現場では、同時に瓦礫のふるい掛けを実施し、その中のわずかな骨粉や肉片を検出してDNA鑑定をしていったらしいです。

中村くんの同僚の犠牲者は、この綿密な作業の末、死亡が「確認」されたとか。衝突した部分はおよそ1,000℃の熱で数時間燃えたとか。
火葬場ですら1,000℃で1時間程度の燃焼で遺体を燃やします。

灼熱の中にいた人は、何も残らないままこの世を去ったそうです。こんな惨状の中に、福岡の人間もたくさんいたのが3年前の9・11のNY。ニューヨークだろうが、イラクだろうが、ロシアだろうが、決して対岸の火事ではないはず。

何かしらの係わり合いを持つ人が、この福岡にだっているはず。ただボクも知り合いが全くいない土地の事件だったら、ここまで熱くこの日の報道に携わったかどうか疑問は残ります。けど、明らかにボクの会社の現場も上層部も間違った判断をした恥ずべき日。

それが9・11。
生きている友達の女の子にも、亡くなった中村君にも申し訳ない気持ちしか残らない。戦争の悲惨さ、テロの残酷さ。。。などを反省する日にはなっているけど、危機意識に根付いて、緊急事態でどのような報道をするか?って話はウチの会社にはない。

皆無。
やっぱり反省が生かされない。というよりも、あの日の報道の反省をした人を見ていない。取材源で利用され、怒りをメディアにもち続ける人々の気持ちをボクはこの日に垣間見たのでした。

 

 


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コメント

  1. motoo より:

    ぼくはその日も沖縄料理屋で飲んでいました。福岡9ch系の局の人と飲んでて、報道局からメールが飛んできて「大変ばい!」と騒いでいると、「そんな事あるわけなかろーが!」と隣の席の人に怒られた覚えがあります。
    ちなみに数ヶ月前に中東で拉致監禁された3人の内の一人が、知人の幼なじみだったらしい。
    意外と近くの人がトラブルに巻き込まれてるんですねぇ、しみじみ。

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